いまを楽しむ、原宿の茶飲み友達。
1970年代から〈MILK〉と〈MILKBOY〉のディレクターを務める大川ひとみ。時代が変わっても流行の街・原宿を舞台に若者たちを目がけて、「可愛い」ファッションを表現している。そんな生涯現役のクリエイターは世代を問わずに交友関係を築いてきた人物でもある。藤原ヒロシ、高橋盾、NIGO®️……、スカルマークをアイコンに裏原宿ブームを牽引してきた〈BOUNTY HUNTER〉のHIKARUもその一人だ。いつものカフェで、ミルクティーを飲みながら語り合う二人。気心の知れた友人同士の雑談には、人生に大切な価値観が詰まっていた。
大切なのは、楽しい時間を過ごせること。
ひとみ:HIKARUくんと最初に会ったのはいつだっけ。
HIKARU:俺が20、21歳とか? 東京セックスピストルズをやってたときじゃないかな。
ひとみ:はじめはそんなに仲良くなかったけど急にね。そのときから私たちは原宿のお茶飲み友達なんだよね。昔を懐かしむわけでもなく、話題は最近のことばかりだし。
HIKARU:俺が言うのもアレだけど、ずっと変わらない関係だよね。ひとみさんと仲良くなって、東京セックスピストルズの初めての名古屋のライブはミルクの車を借りて行ったんだもん。俺が運転して。ジュン*1とかも仲良かったけど、ひとみさんと仲良くなるヤツらはなんで人気が出るんだろうね。
ひとみ:私は何も求めてないんだよ。一緒に楽しいときを過ごそうっていう気持ちが合ったのが大きいんだと思う。
HIKARU:ひとみさんは俺がDJをやるときも遊びに来てくれたりね。先輩なんだけど別に気を遣うわけでもないし、俺にとってひとみさんみたいな関係の人は他にいないんだよね。あとはわかりやすい男の先輩ばかりじゃん。俺は友達とつるむのは苦手だけど、ひとみさんとはそうじゃなくて。近づきたいとか、そういう気持ちも一切存在しないんだよな。撮影のモデルをお願いされると、「やります、行きます」っていう軽い感じで。
ひとみ:やっぱり友情だよね。私はお酒を飲まないでしょ。友達のほとんどが飲まない人たちだから。
HIKARU:俺は出会ったときは飲んでたし、ただの荒くれ者、絵に描いたようなパンクスだった(笑)。でも事故してから、お酒をやめて。
ひとみ:若かったから。HIKARUくんがいまもお酒を飲む人だったら、友達になってなかったかも(笑)。
毎日がパーティーじゃないと。
HIKARU:俺にとっての原宿はひとみさんと山崎さん*2がつくった街だからね。俺らはそこにお邪魔させてもらってるだけで。
ひとみ:いや、そんなことはないよ(笑)。
HIKARU:ひとみさんにも山崎さんにも可愛がってもらえたのは、すごく幸せだなと思う。
ひとみ:私たちはお金の絡みとかがまったくないからね。だから、うまくいくんじゃないの?
HIKARU:あまり俺は褒められることがないんだけど、ひとみさんはすっげえ褒めてくれるから嬉しい。俺はこの生き方しかできないから、よかったなって安心できる。
ひとみ:まだ16歳だよ、HIKARUくんは。私は18歳くらい。もっと若いかもしれないけど(笑)。
HIKARU:俺のことを可愛いって言ってくれるのもひとみさんだけ(笑)。
ひとみ:HIKARUくんはラブリーな人だから合うんだよね。16歳くらいの女の子、男の子って可愛いでしょ、世の中のことをまだわかんなくて。だから、私もそのテンションでいられるといいなって。そうじゃないと厳しい社会だし、私たち洋服屋はハードスケジュールだと思うから。ターゲットが若いし、日々新しい何かを吸収できる。原宿で仕事してると、それをソフトな感じにできるの。私は世界中で原宿が一番好き。緑は比較的あるし、のんびりしてるんだよね。でも、私は毎日がパーティーじゃないとダメなのよ。いろいろあるけど楽しいんだよね。
HIKARU:考えたことなかったけど、俺も楽しいかも。すごく大変だけどさ。
いまも昔も、ただのオタクなんだよ。
HIKARU:ひとみさんは昔から言ってるよね。若い子はお人形さんと一緒で、自分の服で可愛くしたいんだって。
ひとみ:たとえば親だったら、自分の子どもをつらい目に遭わせたくないでしょ? 若い子たちを見てるとおもしろくて、いつまでも学びがある。自分が忘れてた部分を思い出させてくれたり、私はずっとお客さんに成長させてもらってるんだなって。花を愛でることもテイストとしては同じノリなのかな。みんな繋がってると思う。HIKARUくんがおもちゃをつくるのもそうじゃない? 可愛くて仕方ないでしょ。
HIKARU:たしかに。俺は若い子の話をちゃんと聞いてみようかなと思えたのも最近だし、ちょっとは大人になったのかな。自分のこと以外は知らねえよみたいな人生だったけど、いまは若い子が何か始めたいんだったら、俺にできることがあればやってあげようかなって。どうしてかわかんないけど、最近になってそう思えるようになってきたんだよね。もし騙されてたら、「この野郎」って言えばいいだけだから(笑)。
ひとみ:HIKARUくんはずっとパンクロックが好きだよね。私もパンクが好き!
HIKARU:音楽もおもちゃもこれを越えるものがなかなか見つからなかったんだよね。SEX PISTOLSのアルバムって1枚で終わってるじゃん。2枚目ができてなくて。それって1枚目が一番いいと思ったからじゃねえのかなって。俺もいろんなものを見てきたのに未だにパンクが一番好きだし、ずっと同じことをやってるだけなの。ただのオタクなんだよね。
ひとみ:仕事が生活の一部だからだよね。私はとにかく自由でいたい。呼吸をするように服をつくって空気に乗って、ふわっとした感じに生きていきたいな。
HIKARU:ロカビリーとパンクが好きになった小さい頃を思い出してみるとさ、みんなが好きなものはあまり好きじゃなくて、自分で見つけた宝物だったんだよね。あのときの嬉しさは、いまも自分の根っこにあるのかもしれない。ひとみさんとこういうことを話したことはなかったよね。二人ともビジョンで動いてないんだなって思った。
ひとみ:うん、私は地震が来なきゃそれでいいよ。
*2 山崎眞行。原宿キャットストリートにあるブティック〈PINK DRAGON〉とファッションブランド〈CREAM SODA〉の創設者。